楽しいへら鮒釣りのお話 

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【期待感】 

 へら鮒釣りを始めた25年くらい前の話である。とある釣り場に、現在はM支部に属しているOさんと、もう一人誰か忘れたが(仮にXさんとして)、3人で釣行した。

 

 

 この釣り場はジャミがほとんどいなくて、底にはゴリとエビがいるだけである。淡水魚では鯉と真鮒が少しいるだけであった。へら鮒の数も少なく、朝6時ころから釣り始め、最初のさわりが出るのが3時間ぐらいかかるような釣り場であった。へたをすると朝から夕方5時まで、12時間近く釣っていてもノー魚信(アタリ)ということがめずらしくなかった。まさに忍耐の釣り場であった。

 

 

 しかし、もし万が一、釣れれば尺上は間違いなく、かなりの良型が期待できた。当時は放流事業もまだ一般的ではなく、県内で尺を超えるへら鮒は珍しかったのである。こういう釣り場は期待感があり、数が釣れなくても楽しかった。運が良ければ3匹くらいは釣れたのである。

 

 

 その日は、三人で並んで釣り座を構えた。竿は15尺、大型の浮子で両ダンゴの宙釣り。釣り道具をセットして餌打ちを開始したところ、この日は1時間ぐらいで触りが出始めた。浮子が立ち、ゆっくりなじんでいく。なじみきってから餌がバラけて浮子が上がってくるときに、モヤモヤと触りが出る。

 

 

 私は「おっ!、触りが出ている。へらがいるぞ!」と、声をあげた。

 

 

 餌落ちが出たので、餌を付け替えるために竿をあげると、隣りのOさんも「触りが出た」と叫んでいる。そうしているとさらに隣りのXさんも「私にも触りが出た、今日はへらの寄りが早いようだ。ついている!」と叫んでいた。

 

 

 三人とも触りが出るのが意外にも早かったので、わくわくしながらかなり期待して餌打ちを行っていた。一人に触りが出るのはわかるが、三人ともに触りが出てくるとは、さてはへら鮒の大群が回ってきたかと大いに喜んだ。

 

 

 そうしているうちに、私にチクッと魚信(アタリ)が出たので、ビシュッ!と合わせると、10センチくらいの真鮒が釣れてきた。

 

 

 「なんだ〜、マブか」と、残念に思ってマブを放して、餌打ちを開始した。しかし、このたった一匹の真鮒を釣りあげたら、その後は三人ともに触りは全く出なくなってしまった。

 

 

 さては、三人に出ていた触りは、あの真鮒が行ったり来たりしながら、三人に触りを出していたのじゃないかというのが結論だった。

 

 

 この日は、以降5時までやったが、まったく、ノー魚信(アタリ)で三人ともデコった。へら鮒釣りは忍耐の釣りであることを思い知らされた。

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